15歳未満の脳死判定と臓器提供

ついに15歳未満(報道によると10代前半)の子どもが法的脳死判定され、臓器摘出、移植へと進むようです。

ニュースリンクを、とりあえず。

http://mainichi.jp/select/today/news/20110412k0000e040014000c.html
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20110412/k10015251961000.html
http://www.asahi.com/national/update/0412/TKY201104120072.html

(追記)ちょっとした解説や見解が盛り込まれている記事をいくつか追加。
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110412/bdy11041211410003-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110412/bdy11041212000004-n1.htm
脳死状態に陥ってしまったお子さんは、交通事故による頭部外傷が原因とか。
「平成9年に施行された臓器移植法では、脳死下の臓器提供ができたのは「生前に本人が書面で意思表示をしていた15歳以上」のみとされていた。」という、誤ったと言ってもよい記述もある産経新聞の記事。(正確には、法律の文面ではなく、ガイドラインの規定による。)

http://mainichi.jp/select/science/news/20110412k0000e040069000c.html
日本小児科学会会長の五十嵐隆氏、臓器移植患者団体連絡会の見目政隆氏、東京財団研究員(生命倫理)の臏島次郎氏(ヌデ島次郎氏)、大阪医科大(小児科学)の田中英高氏、「臓器移植法を問い直す市民ネットワーク」事務局長の川見公子氏のコメントがあります。

五十嵐氏は、「まずは提供されたお子さんの人権をしっかり担保することが最優先だ。」とコメントしている。
それなら、脳死状態になってしまったその子の「意思」を確認することが大切なのではないか、と思ってしまう。

(12:25追記)
12時のNHKニュース、15歳未満の子どもの脳死判定について、いわゆる「推進派」(毎日新聞でも取り上げられている五十嵐氏)のコメントのあと、せっかく弁護士の光石氏のコメントだったのに、緊急地震速報でカット。何事もなかったように、次のニュースに移行。時間が限られているとはいえ、ちょっと不誠実な対応に思える。

和田寿郎氏逝去のニュース

和田寿郎氏が2月14日に亡くなりました。
脳死臓器移植」という問題、さらには日本における「生命倫理」の歴史を考えるうえで、重要な位置を占める「和田心臓移植」の執刀医として、文献・資料等を通してでしか知りませんが、ご冥福をお祈りしたいと思います。

以下に、ネット上で読める和田氏のお悔みのニュース記事のリンクをまとめておきます。
毎日新聞の2番目の記事には、米本昌平渡辺淳一、福嶌教偉の各氏からのコメントがあります。
産経新聞の2番目の記事では、馬原文彦、大久保通方、小柳仁の各氏のコメントがあります。
また、和田寿郎氏の業績の一つである「和田カッター弁」(人工心臓弁)について言及されているのは、時事通信の記事のみの模様です。

バランスを取ろうとした毎日新聞脳死臓器移植の問題に対して相対的には「推進派」に色分けされる方々のみのコメントを載せた産経新聞、「心臓移植」だけではない和田氏の業績に目配りをきかせた時事通信、マスコミの論調が変化したことにも言及している朝日新聞北海道新聞、など細部は様々です。

1980年代から90年代にかけての「脳死臓器移植」をめぐる社会的議論の「歴史」を調べてきた者としては、近年のこの問題をめぐる論調や議論のされ方の変化を思うと、1つの時代が終わったのかもしれない、と感じてしまいます。

毎日新聞毎日jp
http://mainichi.jp/select/person/news/20110215dde041060033000c.html
http://mainichi.jp/select/person/news/20110216k0000m040131000c.html
朝日新聞asahi.com
http://www.asahi.com/obituaries/update/0215/TKY201102150243.html
読売新聞(YOMIURI ONLINE
http://www.yomiuri.co.jp/national/obit/news/20110215-OYT1T00620.htm
産経新聞MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110215/bdy11021513040004-n1.htm
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110215/bdy11021521010007-n1.htm
共同通信(47NEWS)
http://www.47news.jp/CN/201102/CN2011021501000339.html
時事通信時事ドットコム
http://www.jiji.com/jc/c?g=obt_30&k=2011021500384
北海道新聞どうしんウェブ
http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/273144.html


追記(2011.02.17 17:30)
和田心臓移植の詳細について、一般向けに書かれた入手しやすい書籍では、以下があります。
凍れる心臓』には関係者へのインタビューと当時の検察による捜査資料の要約があります。和田心臓移植について知る、調べる際には必須のものと言っていいのではないかと思います。
小松美彦脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書)』の第六章、中島みち『新々見えない死―脳死と臓器移植』の第一章では、それぞれの調査に基づいて和田心臓移植について再構成されています。
やや入手困難かもしれませんが、吉村昭神々の沈黙―心臓移植を追って (文春文庫 (169‐9))』は「ドキュメンタリー・ノヴェル」とされるものですが、8節以降で和田心臓移植について登場人物も実名で書かれています。また和田心臓移植が行われた時期に札幌医大の整形外科講師だった渡辺淳一による『白い宴 (角川文庫 緑 307ー4)』は、小説ですが和田心臓移植のドキュメント的性格をもつとして紹介されることの多いものです。この両者は、和田心臓移植が行われた直後に朝日新聞紙上で論争したことでも知られています(1968年8月12日朝日新聞夕刊9面に吉村昭、同年8月17日朝日新聞夕刊9面に渡辺淳一)。
和田寿郎氏本人の著作としては、最近のものだと『「脳死」と「心臓移植」―あれから25年』『ふたつの死からひとつの生命(いのち)を』などで「和田心臓移植」について書かれています。

凍れる心臓

凍れる心臓

脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書)

脳死・臓器移植の本当の話 (PHP新書)

ノーベル医学生理学賞

久々の更新になってしまいました。
明日の講義の準備をしながら、ノーベル財団のHPで、医学生理学賞の発表をライブ動画で見ていました。
発表の20分後には毎日新聞で速報が出ていますが、IVF体外受精)技術の開発でロバート・エドワーズ氏に授与されました。
http://mainichi.jp/select/world/news/20101005k0000m040023000c.html

財団のHPで発表されたものにざっと目を通して確認しましたが、ES細胞研究などにも通じる技術の開発という点も触れられています。
http://nobelprize.org/nobel_prizes/medicine/laureates/2010/

最有力候補とも報じられていたiPS細胞の開発にノーベル賞を授与するには、それを可能にしたIVFの技術がまず先、ということかもしれませんね。

『メタバイオエシックスの構築へ――生命倫理を問いなおす』

昨秋からいろいろあって、このブログの更新が滞ってしまっていました。
藤田弘夫先生の「お別れの会」のご報告もまだでした。それについては、また改めてさせて頂きます。

さて、昨日2月25日にNTT出版から小松美彦・香川知晶編『メタバイオエシックスの構築へ―生命倫理を問いなおす』が発売されました。この本は、『思想』2005年第9号(No.977)のメタ・バイオエシックス特集に続くもので、その後も精力的に活動してきた「メタバイオエシックス」研究グループの新たな一里塚です。
次のような目次になっています(メインタイトル後のカッコ内は執筆者)。

序章  メタバイオエシックスの構築に向けて(小松美彦

第一部
第2章 「バイオエシックスの誕生」はどのように理解されているのか(皆吉淳平)
     ――米国バイオエシックス研究者の歴史認識とその検討
第3章 「バイオエシックス」は応用法(学)か(田中丹史)
     ――『バイオエシックス百科事典』の分析
第4章 バイオエシックスの歴史(森本直子)
     ――文化的背景からのアプローチ:ウォーレン・T・ライク講演から

第二部
第5章 医の倫理からバイオエシックスへの転回(廣野喜幸)

第6章 バイオエシックスにおける原則主義の帰趨(香川知晶)

第7章 忘却されし者へ眼差しを(土井健司)
     ――バイオエシックス・人間愛・キリスト教
第8章 「尊厳死」思想の淵源(大谷いづみ)
     ――J・フレッチャーのanti-dysthanasia概念とバイオエシックスの交錯
終章  生命倫理に問う(田中智彦)
     ――忘れてはならないことのために
人名索引
事項索引
NTT出版のサイトでの紹介はこちら

恥ずかしながら、私・皆吉が第2章を執筆しています。
というわけで以下、分担執筆者の一人によるあくまでも私的で主観的な紹介です。

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「藤田先生 お別れの会」の案内

先日のエントリで書きました、慶應義塾大学文学部教授の藤田弘夫先生がお亡くなりになったことに関連して、文学部社会学専攻が下記のように「藤田弘夫先生 お別れの会」を執り行うそうです。

文学部社会学専攻の先生方が主催されますが、学内・教員に閉じたものではなく、パブリックな会とのことですので、ここにご案内させていただきます。
なお、会は、献花セレモニーの後、縁のある方々から挨拶を頂くというものだそうです。

日時:平成21年11月13日(金曜日)
    午後6時受付 午後6時30分より8時30分まで
会場:慶應義塾大学 三田キャンパス 西校舎地下一階 生協食堂
お花料:5000円
    なお 勝手ながらご供花お供物の儀はご辞退申し上げます。
    当日は平服でご参席賜りますようお願い致します。
  
   慶應義塾大学文学部社会学専攻教員一同

改めて、親族への優先提供について:議論の開始

この7月に成立した「改正臓器移植法」ですが、来年の施行に向けての具体的な省令・ガイドラインの策定(改定)についての議論が始まっていました。
9月は新学期が始まる時期というわけで、ちょっと情報収集を怠っていたこともあり、知りませんでした…(更新も怠っていましたが…)

7月に「A案」が成立した時点で、すぐに気づかなかったのですが、今回の「改正法」の施行は「1年後」というわけではありません。

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